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大阪で働く法務パーソンのはなし

知的財産権の価値

韓国で三菱重工さんの資産が差し押さえになったというニュースが今週ありました。

差押えになったのは、商標権と特許権とのことで、約8,000万円相当だそうです。

 

太平洋戦争中の「徴用」をめぐり、韓国では去年11月、三菱重工業に賠償を命じる判決が確定し、原告側は今月、三菱重工が韓国で持つ特許と商標合わせて8件の差し押さえを認めるよう裁判所に申し立てていました。

これについて、韓国中部テジョン(大田)の地方裁判所が25日までに、この申し立てを認める決定を出していたことがわかりました。

原告側によりますと、認められたのは原告4人分の損害賠償金などおよそ8億ウォン(日本円で7700万円相当)で、原告側は「三菱重工が誠意ある態度を示さなければ、現金化の手続きを進める」としています。

NHK NEWS WEBより

知的財産は評価が難しい

知的財産権は、評価のとても難しい資産です。

無形資産ですが、B/S上に計上しないものも結構あります。

仮に計上していたとしても、その簿価は取得・維持費用ではないかと思います。

ある知的財産権がどれくらいの価値を持つのかを算定することは、事業価値を算定する以上に難しいのではないでしょうか。

知的財産権は、使う人によって価値がとんでもなく上下する

知的財産権の評価が難しい理由は、権利それだけではほとんど価値を産めないことにあるといえます。

知的財産権のタイプのひとつは、創作を公開したことに対する見返りですが、その創作をただ持っているだけでは何も産まれません。特許を例にあげると、発明を事業に応用できるような、適切な人が適切に使ってこそ、意味があるものです。

もっとも、自分にその力がなくても、他人に実施許諾することで、間接的に事業に応用して自らが利益をあげることも可能です。ただ、発明した人たちが最も有効に使える可能性が高いとは思いますが。

大学院で、特許の信託譲渡の可能性を研究されていた方があって、実例が少ないというお話をうかがいました。著作権の場合、外国では信託譲渡されるケースもあると聞きましたが、それは映画の著作物の著作権のお話でして、映画の著作物ともなると、適切な管理があれば、それ単体がしっかりお金を稼いでくれるため、信託に適しているのかな…というお話でした。特許の場合、それ単体がしっかりお金を稼いでくれるようなスーパー特許が量産されることもないので、なかなか難しいのでは?という議論もありました。

 

また、知的財産権のもうひとつのタイプは、ある標識に蓄積される事業者の信用を保護するもので、商標権が代表例ですが、これは、ある特定の商標を同一人が使い続けることで、当該商標にその人の信用が蓄積されることに意味があり、原則として、他人が代わりに使っても意味がないはずです。

今日まで三菱重工さんの商標だったものが、明日から別人の商標になってしまったら、その商標にどれだけの価値があるでしょうか。三菱重工さんがこれまで使ってきた商標だから価値があるのであって、他人の手に渡れば、商標に蓄積された信用はリセットされ、その価値もリセットされるといっても過言ではないはずです。

 

以上のわけで、知的財産権の価値を定めるのは大変難しいはずなのですが、なぜ敢えてこんな難しい知的財産権を差押えの対象にしたのでしょうか。

差し押さえて、誰かが高いお金で買うのでしょうかね…