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大阪で働く法務パーソンのはなし

役員の就退任時に契約を交わすか

前回の記事にも書きましたが、今年はグループ会社で任期満了により退任する役員があり、定年のため会社も去られました。

会社を去られるにあたって、今回(も)できなかったこと。それは、秘密保持等の誓約書をとることです。他社さんはどうされているのでしょうか。

従業員には入退社時に誓約書をとることが一般化した?

役員の話をする前に、従業員の場合を考えてみます。

私が新卒で入ったところは中小企業のようなものでしたが、入社(入所)にあたっては、身元保証書を提出していました。また、当然のことながら守秘義務については厳しく教育されましたので、在職中はもちろん、退職後であっても守秘義務が存続することは当然だと思っていました。今思えば、入るときも、辞めるときも、そんなルールを書面で確認した記憶はありませんが。

現在では、入社時や退職時に、守秘義務等について誓約書をとるところが結構多いのではないかと思います。我が社は最近まで取得していなかったのですが、同業他社あるいは川下の会社へ転職する方があって、情報セキュリティの観点から取得すべきだ、と複数の中途入社の方から意見があり(私もその一人)、誓約書を取得することにしました。

その内容は、インターネット上にたくさんサンプルが載っていますし、書式集なんかにも掲載されているので、それらを参考に作成しました。入社時には、守秘義務や社内ルールの遵守について、退社時には、引き続き守秘義務を負うことや会社の機器や情報を不正に持ち出していないことなどについて誓約してもらっています。また、これらの誓約に反して会社に損害を与えた場合には賠償義務を負うことにも同意してもらっています。どれくらい効果があるのかわかりませんが。

役員と委任契約書を交わすか?

しかし、今のところ、我が社では、役員とは就任時に委任契約書を締結していません(責任限定契約はちゃっかり締結しますけれども…)。

我が社の場合、役員にだけ適用される「役員就業規則」という名前の社内規定があり、そこには守秘義務などについても触れられているし、事足りているのかもしれません。また、そもそも役員は会社に対して忠実義務・善管注意義務を負うのだから、わざわざ守秘義務を課す必要もないのかもしれません。

退任する役員に競業避止義務や守秘義務を負わせるか?

冒頭に書いたとおり、我が社では退任時にも誓約書を取っていません。

望ましくは、2年くらいの競業避止義務と守秘義務を負ってもらいたいのですが、なかなか難しいです。その理由は簡単で、「恐れ多い」のと「去る人を追いかけられない」から。

グループ会社で過去、不祥事で退任された方があり、その際に辞任届と一緒に上記のようなことを書いた誓約書をお渡ししたのですが、返ってきたのは辞任届だけでした。会社を去られた方に、さらに追いかけて誓約書をとることは難しく、このときは断念しました。また、バリバリ現役の経営者の方に社外取締役をお務めいただき、本業に専念なさることを理由に退任された際も、一筆いただくことは叶いませんでした。このときは、恐れ多すぎて頼めなかったのだと思います。今回の退任役員の場合も、確認したわけではありませんが、同じ理由ではないかと想像しています。

やはり就任時に誓約書(同意書)を取得しておくべきでは?

以上を踏まえると、やはり就任時に誓約書を取得しておくべきではないでしょうか。会社には、競業他社に、あるいは世間に知られたくない情報があるのですから。

ベストは委任契約書の締結であり、従業員と同じようなスタイルでも十分ではないかと思います。心理的なプレッシャーをかけることで、営業秘密の不正流用という犯罪行為のストッパーとなり、結果としてご本人を救うことにもなるはずです。