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大阪で働く法務パーソンのはなし

M&Aのアドバイザーの選定と報酬

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公正なM&Aの在り方に関する指針案がパブコメに付されています。

www.meti.go.jp

この指針案は、MBOや従属会社の取得といった、株式取得者と一般株主との間で利害が対立しうるようなM&Aでの進め方を提案するものであり、もちろん重要性という意味で看過できないディールではありますが、数としては少数派ではないかと思います。

M&Aは大事

事務所に勤めていた頃、M&Aにタッチできるのは、法務DDかクロージング関連の手続くらいでした。M&Aが大勢の人を動かす大事(おおごと)だということは、事業会社に転職して初めて身をもって実感できました。

ディールの規模にもよりますが、やはり100億円を超えるようなディールになるとしっかりFAがつき、ビジネス・法務・財務・税務の各チームでDDを行います。以前は、人事マターは、主に労務リスクが大きいので、法務でカバーすることが普通だったと思いますが、最近では独立して人事DDを行うことも普通になりましたし、環境DDやシステムDDなんかも実施することがあります。

大抵のDDでは、中間報告と最終報告という場を設けて、各チームのDD結果を共有します。この報告会には、(我が社の場合)社長や一部役員も参加しますし、外部アドバイザーを含めて錚々たるチームメンバーが一堂に会するので、我が社の場合だと総勢50名近くになります。偉い人をたくさん集めているため時間にも限りがあり、各チーム30分足らずで報告と質疑応答を行うというのが、どの会社さんも実態ではないかと思うのですがいかがでしょうか。

報告会で出席者を見渡したり、各チームから(枕にできそうな)分厚い報告資料を頂戴するたび、これだけのお金と時間をかけてもらったのに、わずかしか報告時間を確保できなくて申し訳なく感じます。

アドバイザーの選定方法

DDを進めるには外部アドバイザーのお力添えが必須です。

FAは銀行や証券会社さん、ビジネス、財務、税務、人事は4大監査法人さん(系列会社含む。)、法務は法律事務所さんというのが一般的ではないでしょうか。

ほかのチームがどのようにそのアドバイザーを選定しているのか詳しくは知りませんが、財務・税務は、M&Aの会計処理が伴うため、自社の会計監査人の監査法人が務めることが多く、ビジネスと人事は同じコンサルティング会社のことが多い気がします。

さて、法務はというと、我が社の場合、以前はディール担当者が自由に選ぶというスタイルだったのですが、最近は法務が関与するようになりまして、DD費用が1,000万円を超えることが見込まれる大きな案件では相見積もりを取ることにしています。他部門に偉そうなことをいう立場なので、示しをつけるためです。相見積もりといっても、ただ値段を聞くだけではなくて、RFP(提案依頼書)のようなものを作って、強みやこれまでの経験などもお尋ねするようにしていますし、報酬も可能な限りブレイクダウンしてもらうようにお願いしています(例:DDに●円(本体●円、子会社●円)、契約レビューに●円)。

ただ、難しいのはどこに声をかけるかです。お願いできる事務所はひとつだけなので、そのほかのところにはごめんなさいを言わなければなりません。それができるだけの信頼関係を築けている事務所がどれくらいあるか。最近は大規模事務所でなくてもDDをお引き受けくださるところが増えているとはいえ、大阪だとお願いできるところが限られているという事情もあります(東京の事務所に頼めばいいじゃないかとも思いますが、face-to-faceを重んじる社風であります。)。

加えて、法務担当者として法務アドバイザーに期待したいのは、柔軟なコミュニケーション。我が社も法務の立場はまだまだ弱く、私の言うことと外部弁護士が言うことでは影響力が全く違うので、弁護士にとっては当たり前のことでも、敢えてクギを刺していただいたり、法務部門の伝えたいことを代弁していただくことができる弁護士が中心的なメンバーにいてくださると大変ありがたいです。あと、話が簡潔な方。大阪人はせっかちですから。笑

報酬の決め方ーみんなタイムチャージではない

最後に、各アドバイザーの報酬について。

事業会社に来て意外だったのは、報酬体系がアドバイザーでかなり違うことです。もちろん定め方は色々あると思うのですが、以下のようなケースが多いのではないでしょうか。

  • FAは月極め+成功報酬
  • ビジネス、人事(コンサルティング会社系)は月極め
  • 財務、税務は定額
  • 法務はタイムチャージ(キャップを設けることも)

どのアドバイザーも、基本的に委任契約だと思われるので、報酬体系は同一でもおかしくないはずですが、実態はバラバラ。

法務は、開示資料のボリュームによって作業量が変わりやすいということもあってか、基本的にタイムチャージであり、これが最も合理的だと思います。しかし、このタイプは少数派です。ほかのチームは作業量が一定なのか?

そして、DDやM&Aに要する費用のうち、財務、税務、法務のアドバイザー費用よりも、FAやコンサルティング会社さんにお支払いする額のほうが圧倒的に高いです。開示資料のボリュームや進捗度合いにかかわらず、毎月一定の(高額)リテイナー報酬を払うって正しい姿なんでしょうか…数万円の経費を一生懸命削っている大多数の社員が知ったら、暴動が起きそうです。