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大阪で働く法務パーソンのはなし

CISGを排除できていますか?

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先日、クロスボーダー取引の経験が豊富な企業の法務部門や弁護士の先生方とお話する機会がありました。話題はCISGで、「契約書では、CISGは必ず排除している」とほぼ満場一致。

実際、あまり熱心に勉強しないという方が多数派と思われますが、CISGを完全無視することもできなそうだと目から鱗の気づきがあったので、記録しておきたいです。

CISGは、営業所が異なる国に所在する場合に原則適用される

CISG(国際物品売買契約に関する国際連合条約。通称ウィーン売買条約)は、1988年に採択され、日本は2008年に加入、2009年に発効しています。日本は、条約の草案の段階から熱心に関与していたそうですが、加入が随分と遅れたのは、産業界がその必要性を認めなかったからと言われています。産業界としては、必要なことは契約で決めているから条約などいらない、ということだったようです。

CISGは、営業所が異なる国に所在する当事間において、①いずれもが締約国である場合(第1条第1項)、または②一方が非締約国であっても、国際私法により締約国の法を適用するとされている場合(第1条第2項)に、原則として自動的に適用されます。当事者は、CISGの適用を排除または変更することが可能ですが(第6条)、この場合は、売買契約において明示的に排除する文言を規定しなければなりません。

CISGは契約書で明示的に排除するのが一般的

そして、現在、CISGは売買契約において適用を排除するのが一般的です。

ある弁護士によれば、CISGを排除する慣行は日本だけではなく、他国も同じだそうです。

 みんながCISGの適用を排除する

  ↓

 CISGに明るい弁護士が少ない・予測可能性が低い

  ↓

 CISGでトラブルになったら弁護士費用がかさむことが予想される

  ↓

 CISGを排除する

という悪循環?で、CISGは敬遠され、「CISGの必要性を感じない」という事態になっています。稀に、法的安定性が期待できない国では、「自国のルールよりCISGのほうが受け入れられやすい」という理由で採用することもあるそうですが。

契約書がない売買契約ではCISGが適用されるという盲点

  • 締約国間では、原則としてCISGが自動適用される
  • 適用を排除したければ、売買契約で明示的に排除する文言が必要

CISGの適否には、以上の明快なルールがあり、適用排除は簡単なことのはずですが、それができないのが現実の世界です。というのも、受発注書で済まされる売買が相当数あり、受発注書で「CISGは排除」まで書くことは通常ありません。すると、こういった物品売買ではCISGが自動適用される場面がありえます。ある方のご指摘を聞いて、確かにそうだと納得するとともに、なんだか嫌な汗をかいてしまいました…

実際のところ、日本法で考えるのとどれくらい大きな違和感があるのか、弁護士の先生も交えてお話したところ、(よくわからないけれど)そんなに違和感のある結論にならないのでは?という話になりました。みんなCISGに明るくなかったので、真偽のほどは定かではありませんが…CISGは、英米法系と大陸法系の折衷だという解説もあり、英米法系だと××だけど、CISGでは●●、大陸法系だと▲▲だけど、CISGでは◆◆といったアプローチで理解するとそれがわかるという話も。

ともあれ、契約書で排除していても、CISGを完全スルーすることはできないようなので、少し勉強する必要がありそうです。