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大阪で働く法務パーソンのはなし

民法改正その後

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ビジネスロージャーナルの12月号の特集は、「民法(債権法)改正後の実務フォローアップ」でした。

去年の今頃は、改正対応した契約書雛形の作成を終え、どこまでこの雛形を使おうかと頭を悩ましていたような…改正後しばらく実務を見て、雛形の再修正の要否を検討しようと思っていたのに、改正後はその余裕がなかったです。

きっと、そんな企業が多かったですよね…

売買契約の場合

特集記事のひとつに「売買契約の対応状況と中期的な課題」というものがあります。著者のお二人(MHMの先生)は改正前にまさに売買契約についてどこをどう直すべきかという記事も書いていらして、大変参考にさせていただきました。

記事では、改めて、改正対応のポイントを以下3つに整理されています。

 

①契約に用いられている用語・字句が改正法に沿っているか。

②改正法の任意規定を適用したい場合に、契約条項がその適用を排除してしまっていないか。

③改正法の任意規定の適用を排除したい場合に、契約条項が適切な特約を定めているか。

ー青山=岡成「売買契約の対応状況と中期的な課題」BLJ12月号P.19

タイトルとは裏腹に、その結果各社がどう対応したか、ということが詳しく書かれているわけではないのですが、行間から、MHMのクライアントであっても、改正によって契約書を大幅に見直したところも、再締結を積極的に推し進めたところも少ないと受け取りました。

改正を理由に契約書を再締結する必要はない

特集記事の最後は、「【Crosstalk】改正民法への対応状況」と題して、メーカーやITサービスの企業4社が実際にどう対応したか、どこに頭を抱えているか、といったことが取り上げられています。気になるところですね。

この記事に登場されている4社は、いずれも、改正が契約に与える影響は極めて小さい/ないと判断し、既存の契約の再締結はしなかったそうです。そもそも、法改正の趣旨と内容が120年間の裁判例をはじめとする実務の蓄積を反映したものだから、きちんとした契約書がすでに締結されているなら、修正しなくても影響がないようになっているはずですよね。

記事には、「民法改正を機に」といいつつ、改正内容に無関係な修正(かつ自社に有利な内容)をよこしてきた企業があった、という鋭い指摘があり、ちょっと冷や汗が…それ、当社でしょうか。
モデレータを務める藤野忠弁護士も「社内的に「改正対応」ということで話を進め、現場も修正の内容を十分に消化せずに取引先に投げてしまったことで、悪意はなくても結果的に「改正対応の趣旨から外れた」締結済み契約の再交渉を取引先に強いることになった会社は多かったのではないか」とコメントされていました。ギクリ…だって、10年選手の契約書雛形なんて、見直したらあちこち手を入れたくなるではありませんか。再締結は実現していませんけれども。

下請法と整合しない…

改正民法では、契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)を追及するには、不適合を知った時から1年内に通知すればいいことになりましたが、記事では、下請法上の不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止との整合性を指摘する発言がありました。というのも、昨年版の下請法テキストには、不当な給付内容の変更又は不当なやり直しに該当する事例として、「通常の検査で瑕疵等のあること又は委託内容と異なることを直ちに発見できない下請事業者からの給付について、受領後1年を経過した場合」が挙げられていたからです。この点、モデレータの藤野弁護士は、下請法テキストは改正民法に対応したものに改められるはずとの期待を示した上で、このルールは、民法所定の年数より延ばすことを禁じたものすぎないから、民法所定の期間で運用している限り、これらに該当することにはならないはずだと見解を述べられていました。

ところがどっこい?先日いつの間にか更新されていた令和2年版の下請法テキストの該当部分の記載は次のとおりでした。

 

通常の検査で瑕疵等のあること又は委託内容と異なることを直ちに発見できない下請事業者からの給付について,受領後1年を経過した場合

ー下請法テキストP.84

一言一句、変わっていません。民法改正にも触れられていません。今年は諦めたのか…?どう考えても、民法のルールに従う限り、下請法違反だと言われる筋合いはないと考えますが、こうも真正面から違うことが書いてあると、気が引けてしまいます。公正取引委員会も、テキストを具に修正するより、このご時世に便乗して悪事を働く輩をとっ捕まえるほうが優先ですかね。。

改正バブルに騙されない

昨年の今頃は、改正対応した雛形は完成させていないと論外、社内に改正の説明と周知を図り、再締結に備えるべきだ!といった風潮だったように記憶しています。しかし、社会情勢がそれどころでなかったということもありますが、蓋を開けてみれば、大きな波はこなかった。純粋に民法改正を理由に再締結を求める企業には、未だお目にかかっていません。

まんまと改正バブルに乗せられた気がします…もちろん、新たに締結する契約書の雛形を見直せたはことは大きいけれど、「目的をしっかり書く」というプラクティスも浸透していないし、昨年はだいぶ弁護士の先生方に騙されたな…と思っております。いっぱい本も買ったし、相談もしましたので。。