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大阪で働く法務パーソンのはなし

「バーチャルオンリー型株主総会」とは?

昨日、サイボウズ株主総会をオンライン拝聴した話を書いたら、なんとサイボウズの社長とコーポレートブランディング部長にtwitter上でご紹介いただきました。光栄だけれど、ちょっと恥ずかしい。

当日の様子は、近日改めて配信されるとのことなので、見逃した方もチャンスがあります。

 

さて、サイボウズのみならず、この時期は12月決算の会社の株主総会シーズンです。

昨日はショッキングな報せもあり、新型コロナウイルスの影響が大きくなるばかりで、なんとか出席株主を減らそうと各社工夫されていますが、「株主総会の完全バーチャル開催ができないなのはおかしい。急ぎ会社法を改正せよ。」という意見も見聞きするようになってきました。

株主総会の参加者と開催方法

話を進める前に、株主総会の参加者と開催方法について。

株主総会には、少なくとも議長(たいてい取締役の誰か)、取締役・監査役、株主が参加します。

これら参加者が出席する方法は、先日出された経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」の分類を拝借すると、一堂に会する従来のスタイル「リアル株主総会」、「リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会会社法上の『出席』をする株主総会」の「バーチャルオンリー型株主総会」、リアル株主総会にインターネット等で参加する「ハイブリッド型バーチャル株主総会」があり、会社法上の「出席」を認めず、傍聴するだけなのが「参加型」で、会社法上の「出席」を認めるのが「出席型」とされます。ざっくり書くと以下のとおりですね。

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バーチャルオンリー型が不可な理由

経済産業省のガイドやその他の巷の解説では、バーチャルオンリー型の株主総会はできないと解されています(コンメンタールを確認していないのですが、一緒でしょうか?手元の会社法の本には何も書いてありませんでした…)。

認められない理由は、会社法298条1項1号が株主総会の招集にあたって株主総会の「日時及び場所」を定めるよう求めているところ、「場所」が必要な以上、バーチャルオンリー型は解釈上無理があるというもの。経済産業省が引用している過去の法務省民事局長の答弁は、以下のとおりでした。

 

松平浩一委員 

(略)まずこの現行法の解釈を伺いたいんですが、ハイブリッド型とバーチャルオンリー型の株主総会、これは日本ではできるのかどうか、法律上許容されるのかどうか、これを伺いたいと思います。

小野瀬厚政府参考人

まず、委員御指摘のハイブリッド型についてでございますが、取締役が実際に開催する株主総会の場所を決定し、これを株主に通知した上で、その場所に来ていない株主等についても、情報伝達の双方向性及び即時性が確保されるような方式によって株主総会に出席することを認めることは、会社法上許容されるものと解されます。したがいまして、実際に開催されている株主総会に株主がオンラインで参加することを許容すること、いわゆる御指摘のハイブリッド型の株主総会を行うことは、会社法上許容され得るものと解されます。

これに対しまして、実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容することができるかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております。

ー第197回国会法務委員会第2号(平成30年11月13日)

「バーチャルオンリー」な株主総会は存在するのか?

私は、「バーチャルオンリーは是か」という議論にすごく違和感があります。その理由は、そもそも株主総会に「バーチャルオンリー」なものはないと思うからです。株主総会には必ず自然人がどこかでリアルな「出席」をし、リアルな「場所」がないことはありえません。

少なくとも株主総会には議長がいて(会社法315条)、多くの企業では定款上取締役の誰かが務めることになっています。また、役員には説明義務が課されていることからして(会社法314条)出席義務があると思われます。日本の会社法では、取締役や監査役は自然人でなくてはなりませんから、株主総会には、最低でも会社側の自然人が1名以上出席します。その自然人のいる場所を「株主総会の場所」とできるのではないでしょうか?

株主総会の「場所」は一つだけでいい

旧商法時代から、テレビ会議システムや電話会議システムを用いた株主総会・取締役会等は認められていました。そして、そのような方法で会議を開催した場合、それぞれが参加した場所を次のような感じで議事録に書いておくのが一般的なプラクティスでした。

 

 日時:●月●日●時●分(日本時間)/●時●分(アメリカ東部時間)〜・・・

 場所:東京都・・・(出席者:●●、●●)

    アメリカ合衆国ニューヨーク州・・・(出席者:●●、●●)(電話会議システムによる出席)

 

それが、会社法施行後は、「当該場所に存しない取締役(略)又は株主が株主総会に出席した場合における当該出席の方法」を議事録に書いておけば良いことが明確になり(株主総会の場合、会社法施行規則72条3項1号)、開催場所にいない場合には、出席役員の名前の横に「(電話会議システムによる出席)」などとだけ書けばいいというプラクティスに変わりました。

つまり、「出席者がいるところはすべて開催場所」という発想から、「開催場所は1か所」という発想に変わったのです。一人ひとりがどこから参加したかを議事録に記す必要はありません。

開催場所にやってくることを禁じてはいけないという趣旨?

以上のわけで、「バーチャルオンリー型株主総会」など観念できないと私は思うのです。

おそらく、みんながダメだという「バーチャルオンリー型」とは、「開催場所がない」株主総会ではなくて、「株主の出席権をバーチャル手段に限る」株主総会のことなんでしょうね。

それは、リアルタイムの双方向性が確保されていれば、リアルかバーチャルかは関係なさそうだけれど、通信障害の可能性が否定できないからダメなのかなぁ。