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大阪で働く法務パーソンのはなし

問いのデザイン

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今年は外出機会がめっぽう減ったので、例年より読書数が多いです。好きな時間の過ごし方のひとつに読書があってよかった!

今日は、安斎勇樹・塩瀬隆之『問いのデザイン』について。

ファシリテーションへの興味

おそらくもともと「仕切り屋」気質があることに加え、勤務先が次世代リーダーにファシリテーションスキルを強く求めることもあり、「ファシリテーションする」とはどういうことなのか、良いファシリテーションとはどういうものなのか、ここ数年関心を持つようになりました。そこで『問いのデザイン』を読むことに。

法務業務でも、依頼者や関係者に「問い」を投げかけることはたくさんあります。とはいえ、大抵は、問われた方の創造性を刺激することは期待していません(創造されては困ることも多い)。

しかし、こと組織運営となると、チームのメンバーからいかに創造的な対話や議論を引き出すかが重要で、最近は、こちらの仕事が占めるウェイトが大きくなったと感じています。とてもやりがいのある仕事ですが、その分難しく、とりわけ、自分のチームのメンバーに内省を促すときに頭を抱えてしまいます。

認識と関係性の固定化

共著者の一人、安斎さんは、ワークショップデザインアカデミア(WDA)というオンラインコミュニティを運営し、ミミクリデザインの代表を務め、博士(学際情報学)を持つ東大所属の若手研究者でもあります。天才か。塩瀬さんは、博士(工学)の京大所属の研究者。著者のバックグラウンドを見ても、この本が扱うジャンルが既存の学問領域を飛び越えていることがわかります(本人たちは「根無し草」ともおっしゃっていた)。

共著者の2人の専門は、「ワークショップ」や「ファシリテーション」。本書では、「そんなのファシリテーターの職人芸ではないのか?」というお題を体系的に解説しているのですが、冒頭、現代社会に共通する病として、「認識」と「関係性」の固定化というものを挙げています。

「認識の固定化」とは、「当事者に暗黙のうちに形成された認識(前提となっているものの見方・固定観念)によって、物事の深い理解や、創造的な発想が阻害されている状態」をいい、「関係性の固定化」とは、「当事者同士の認識に断絶があるまま関係性が形成されてしまい、相互理解や、創造的なコミュニケーションが阻害されている状態」を指しています。これらによって、本当に解くべき問題の本質を見失い、誤った方向に進みがちというのが著者らの指摘で、それを解決するのが「問いのデザイン」であるといいます。ニューエリートは、「答えを出せる」人ではなく、「問いを立てられる人」だといいますしね。

本当に解くべき課題は何か?

では「問いのデザイン」はどうやってするのか?

これには2段階あって、まずは「問題の本質を捉え、解くべき課題を定める」。本当に解くべき課題を正しく定義しなければならないと繰り返し述べられています。この主張は、安宅さんの『イシューからはじめよ』と通ずると感じます。

しかし、そんな簡単に「本当に解くべき課題」が見つかるとは限らないので、それを見つけるいくつかの手段も紹介されており、さらに、良い課題の判断基準として以下3つが挙げられていました。中でも「内発的動機」は、「衝動」とも言い換えられていて重要といいます。

  1. 効果性
  2. 社会的意義
  3. 内発的動機

足場の問い

問いのデザインの2段階目は、「問いを投げかけ、創造的対話を促進する」。解くべき課題が決まれば、どうやってそれに迫るかを計画し、プロセスをファシリテートします。

この中で、個人的に腹落ち感が高かったのが「足場の問いの重要性」です。解くべき課題が決まっても、崇高すぎてどこから手をつけるべきか悩むし、問題の本質にたどり着くにもいい一歩になる内省が必要です。
私自身、メンバーの評価面談でいつも問いかけに悩んでいるのですが、この足場の問いが苦手なんだと気付きました。メンバーの内省や気付きを促すいい問いが作れない。。そんな迷える中間管理職に、本書は「足場の問いのテクニック」として以下を紹介してくれました。

  • 点数化
    主観的に具体的点数をつけてもらう
  • グラフ化
    主観的に時系列でグラフに表現してもらう
  • ものさしづくり
    価値基準を言語化する
  • 架空設定
  • そもそも
  • 喩える

実践↔︎理論を行き来したい

あまり上手に紹介できませんでしたが、本書は、とても読み応えがあって、読後の満足感も◎。2020年の本ベスト5に入りそうです。読書前にWDAのイベントに参加したこともあって、そのままWDA会員にもなってしまいました。

本書にしろWDAにしろ、実践と理論を行き来するところが楽しい。そして、私が強い関心を覚えるのは、この両方が混沌と入り混じるエリアだと気づきました。最初の就職先に法律事務所を選んだのも、ど素人ながら、学説を実社会の問題に当てはめるところに面白さを覚えたからでした。それを今も続けているのだから、よほど性に合った仕事なのかもしれない…(文句は多いけれど)