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大阪で働く法務パーソンのはなし

保証金と質権と根抵当権と黙示の合意

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取引先管理をする部門から、担保と支援に関する相談を受けました。

相談① 被担保債権と明記されていない立替金も担保で充当・相殺していい?

当社が取引先に有するメインの債権は売掛金ですが、色々な事情で立替をすることがあります。いざというとき、その立替分を、取っている担保で充当・相殺してよいかという話でした。これは、取っている担保で変わってきます。

保証金ならOK

当社では、保証金の場合、取引基本契約その他の契約に基づく取引先の一切の債務の担保として、保証金を預けてもらうと書面で合意しているので、基本的には立替分も相殺可能です。
仮に、被担保債権を売掛金に限定していたとしても、残額の返還債務と立替金の支払債務とを相殺することも可能です。

根抵当権だと不可

他方、不動産に根抵当権を設定している場合、設定契約で「売掛債権」と被担保債権を明記しているし、競売手続を経て現金化されるので、仮に売却額が売掛金以上となっても、売掛金を超えた配当を受けることはできません。もっとも、破産手続においては、立替金は破産債権として届出可能であり、売却額の余剰は破産財団に属することになるので、通常の配当手続の中で、いくらか返ってくる可能性はなきにしもあらずです。

質権は?

では、保証金でも根抵当権でもない、質権はどうか。当社では、定期預金を質権に取っている場合があるんですねぇ。

質権の場合も設定契約があり、原則的な被担保債権は、設定契約に書いてあるものになります。一般的にもそうなのだと思いますが、当社の場合、これが結構ざっくりしていて、「現在および将来自己に対して有する一切の債務」みたいな書き方なんですよね。
つまり、売掛金に限らず、立替金も充当して良さそうに読めます。また、仮に設定契約において被担保債権が売掛金に限定されていたとしても、保証金と同様、質権実行・相殺の結果生じる超過額の取引先への返還債務と、取引先の当社に対しる支払債務を相殺することができるので、結論として、質権の場合も立替金を相殺することができます。

私は質権の実行経験がないのですが、金融機関に所定の書類を提出すれば実行できるみたいなので、保証金に次いで使い勝手の良い担保のようです*1

やっぱり保証金

つまり、根抵当権だけが、被担保債権が限定的です。手続も面倒だし、大抵上位に金融機関がついているし、そもそも評価額がよくわからないから、極度額=与信額とするのも危険。すごく不安定で使い勝手が悪いので、早くやめてほしいのですが、そうもいかず。そして、取引関係がなくなっても、解除の登記をせぬまま放置してしまうことも。。物上保証人も結構多いのですが、相続とかで面倒が起きていないか、他人事ながら心配してしまいます。

定期預金をバーンと差し出してくれる羽振りのより取引先も今は多くないので、「コツコツ保証金を積み立ててもらいましょう」と担当部署にはいつもアドバイスしています*2

相談② 支払不能後は、一方的に支援を打ち切っても良いか

もうひとつの相談は、取引先に金銭的支援をしている場合、支払不能後はその支援を一方的に打ち切ってよいか、というものでした。前提として、その支援は、値引きではなく、また書面による合意があるわけではないけれども、継続的に毎月提供していたものです。

直感的には、「打切りでOK」という話ですが、法務としては、ちゃんと理屈をつけないといけないよ…ということで、弁護士にも相談。

結果、契約書がないけれども、支援について黙示の合意があったと考えるべきでしょ、と釘を刺され、継続的な支援だったという実態を踏まえて「相手方の了解を得る」がベストと言われました。事業継続が難しいのだから、断ることも考えにくいし、そんなに難しい作業ではないはずだ、とも。
ただ、音信不通の場合も十分想定されるので、その場合は、一方的打切りでいいでしょうね、と。もし、取引先から何か言われれば、「継続的な合意ではなかった」という主張をすることになるんじゃないかという話でしたが、ちょっと詭弁ではないか…
書面がないんだから、管財人などもあまり突っ込んでこれないだろうと、なんだかちょっとヤクザだなと思いましたが、頼もしい弁護士ですね。笑

*1:ただし、金融機関によって提出書類が違う可能性もあるし、設定契約と金融機関からの設定承諾依頼書の記載が一致しないという危険もあるので慎重に…

*2:が、それも難しいという取引先が少なくないとか…大丈夫か