一部の業界には、公正競争規約というものがあります。
見た目は、法令のような体裁をしていて、景品表示法をベースにしていることもあり、法解釈と同じように解釈するのが正しいと思っていたのですが、そうでもないみたいです。もはや形骸化しているものも。
公正競争規約とは
消費者庁のサイトでは、公正競争規約について、以下のように説明されています。
公正競争規約(景品表示法第31条に基づく協定又は規約)とは、景品表示法第31条の規定により、公正取引委員会及び消費者庁長官の認定を受けて、事業者又は事業者団体が表示又は景品類に関する事項について自主的に設定する業界のルールです。
私が業務で参照するのは、主に表示に関する公正競争規約なのですが、全国公正取引協議会連合会のサイトを見ると、現在は65あるそうです。一見すると、食品など身近で昔からあるものが多い印象です。IT関連のものはありません。
記憶に残るネスレの脱退
公正競争規約は、その業界の公正取引協議会に加盟している会員にのみ適用されます。普通の企業は、所属業界の会員になっておとなしく公正競争規約を守っていると思いますが、数年前、ネスレが「ソリュブル」の表示をめぐって公正競争規約に異議を唱え、公正取引協議会を含む業界団体を脱退してニュースになったことがあります。
当時ニュースを見て、自社が正しいと思う道を突き進んですごいと思いました。世界的にコーヒー業界を牛耳るネスレだからできたことでしょうが。
公正競争規約を守っていれば、(当たり前ですが)景品表示法に違反することはないとされます。
では、守らなければどうなるのか。その後「ソリュブル」が不当表示と評価されていないことは周知のとおり。公正競争規約を守っていないからといって、法令違反になるわけではない、ということを証明してくれています。
公正競争規約の構成(表示規約)
では、公正競争規約には何が書いてあるかというと、次の5点とされます(全国公正取引協議会連合会のサイト)。
- 定義(対象となる商品やその区別)
例:「牛乳」と「乳飲料」、「醸造酢」と「合成酢」 - 商品に必要な表示事項
例:種類別名称、原材料名、事業者の所在地・名称 - 表示の基準
例:ビールの「生」、合成洗剤の「新製品」 - 不当表示の禁止(不当表示の具体例)
例:ヨーグルトに「純」、ビールに「(業界)最高」 - 過大包装の禁止(一部)
例:観光土産品のアゲゾコ
どの公正競争規約も同じような構成になっており、その施行規則には詳細な定めが設けられています。
不当表示をどう解釈する?
法務で普段問題になるのは、不当表示の部分です。不当表示は、「取引に関し」て不当な表示を禁止しているので、商品パッケージはもちろん販促物の表示も適合しているかを確認しなければなりません。
しかし、、これが簡単ではないのです。
マーガリン類の公正競争規約は、こうなっています。
でも、中にはこんな公正競争規約も。
この書き方だと、どれがどれに対応しているのか不明で、たとえば「濃厚」「最高級」は、根拠があってもダメなのか判然としません。規則の8号だけが「客観的根拠に基づかない」とあるので、それ以外は根拠があってもダメと理解するんでしょうかね。。
「濃厚カフェラテ」といった商品があるではないか!と思うけれど、これはこのコーヒー飲料の公正競争規約が適用されない「乳飲料」なので、根拠の有無を問わずOKということらしい。
さらに「最高峰」という表現を使用したコーヒー飲料もあるけれど、なぜこれはOKなのか…「最高級」と「最高峰」は似てもいないのか?
消費者のための公正競争規約のはずなのに、消費者は置いてけぼりか。
また、果実飲料の公正競争規約施行規則には次の定めがあって、
果汁の使用割合が5%未満のもの及び果汁を含まないものにあっては、果実の絵を表示することは不当表示に該当する。ただし、図案化した絵は差し支えないものとする。
その公式解釈には次のように説明されています。
…どこのメーカーが守ってるんですかね。。
法務<公正取引協議会の現実
普通の法務パーソンがトレーニングしてきた解釈では太刀打ちできない公正競争規約があります。所詮、業界団体が自主的に決めたルールだから、業界団体が黒と言えば黒になるのは仕方ありません。
しかしこれ、消費者庁と公正取引委員会がお墨付きを与えているものなので、もうちょっと解釈に疑義が生じないように指導してくれないものでしょうか。企業には、「届出」「報告」という名目の下、結構細かいご指導をされることがあるのに。。
何より、会員企業がもう少し議論を重ねるべきなんですけど。