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大阪で働く法務パーソンのはなし

自己株式の行方

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少し前に日経平均が24,000円台半ばから急落し、その後は1日の中で乱高下しながらも、終値自体はジリジリ踏ん張っている(昨日は19,000円台後半まで持ってきた)、という日本。株価低迷のこの機会に、自己株式の取得を実施される企業も出てきました(もともと予定していたのかもしれないけれど)。

自己株式取得は株主還元策(らしい)

自己株式の取得は、配当と並ぶ株主還元策とされます。しかも、ただ利益をばらまく配当よりも、1株あたりの価値を高め、また、市場に「株価は割安」というメッセージを与えるので、市場には良いニュースとして迎えられるそう。

定款の定めがあれば取締役会決議で実行可能

自己株式の取得は、原則として株主総会決議が必要ですが、市場で取得する場合には、定款の定めにより取締役会決議で実施することができます(会社法165条2項)。上場企業であれば、自己株式取得の経験の有無にかかわらず、この定めを定款に設けている企業が多いと思います。

インサイダー取引規制には注意

自己株式の取得は重要事実にあたるので、実施する場合には、公表が必要です。それ自体はさして違和感もないのですが、さらに注意しなければならないことは、ほかに重要事実があれば取得できないということ。

すなわち、自己株式が取得できるのは、「グループ会社全体で重要事実がないとき」のみ。

小粒のM&Aなどは軽微基準で切れますが、「何にも重要事実がないとき」って本当にあるんですかねぇ。「重要事実」は、一定の事由の発生事実又は決定事実をいいますが、決定事実の場合、取締役会などの機関の最終意思決定だけをいうのではなくて、経営会議のような一定レベルの方が参加するようなところで決まった場合を含むとされるし、多くの会社では、少なくとも役員の誰かが知った後は、重要事実として管理するといいます。1年の中で、そういった重要事実が一切ないときって、上場企業にあるでしょうか。そんなことをいっても、多くの名だたる企業が自己株式を堂々と取得されているので、ビビり損なのでしょうが。

なお、インサイダー取引とは別に、市場の需給バランスを崩すような大量買いは、安定操作取引の嫌疑がかかるそうなので、会社だけの判断で進めるのは良くないそうです(証券会社などのアドバイスを受けるべし)。

取得した自己株式はどうする?

自己株式は議決権行使もできず、自社で持っていては、本当に「金庫株」のままです。この自己株式の行方は、大きくは3つ。ひとつは、ひたすら持ち続ける。2つ目は、消す(自己株式の消却)。3つ目は再び誰かに渡す(自己株式の処分)。持ち続けるのは、消却するか処分するかの待機期間なので、実際には2つなのかもしれません。

株主還元を追求すると消却されるべきように思うのですが、いろんな企業の有報などを見ていると、保有を続けているところも結構ありますし、最近は業績連動型報酬の導入が進んでいて、その原資?に自己株式を当てている企業も増えているように感じます。

一度市場から回収して、1株あたりの価値を上げておきながら、再び市場に放つのは、希釈化を起こすともとれます。そこは、交付される株式が換金できるのは数年後で、その間に株価上昇に資するように役員や従業員を鼓舞するニンジンであり、結果株価(又は配当)が上がればみなさんもハッピーですよね?と、株主を納得させるのでしょうか。

自己株式の取得は価値を生まない

自己株式の取得は、多くの上場企業で実施されています。私も事務所時代にお手伝いをさせていただいたことがありますし、我が社の顧問もしきりに進めるようです。その理由が理解できず、私が無知だからだと納得していたのですが、最近この疑問が氷解。こちらの本が教えてくれました。

自己株式の取得は、配当と同じであくまで利益の分配。新しいことに投資するわけではないから、会社にとっては価値を生み得ないのです。利益が潤沢に出ている会社であれば、分配されるべき利益の範囲内で自己株式の取得があってもいいのだろうけど、再投資に回すべきFCFがジリ貧の会社がやるのは納得し難いですよね。

我が社は、失敗してもいいから再投資する企業であってほしいなぁ。